小悪魔な悪魔。
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ここはリゼンブールの駅の閑散としたホーム。
ここから今まさに、旅立とうとしている者がひとり。
「兄さん、しっかり頑張ってきてね!」
国家錬金術師の試験を受けるべく、遠くイーストシティへ旅立つ兄の手を握り、アルフォンスは大きな身体を震わせる。
「やっぱり心配だなぁ〜。兄さん、僕も一緒に・・・」
「何言ってんだ!試験終わって結果出たらすぐ戻ってくっから、お前はどーんとここで構えて待ってろ!」
そう胸を張るエドワードは弟の不安を吹き飛ばすようにからから笑ってみせた。
身体は豆のように小さいが、俺様な性格とトラブル気質は特大。
加えて性格に似合わぬ美少女ばりの美貌。
生まれてこの方、兄がらみのありとあらゆるトラブルに否応なく巻き込まれてきたアルフォンスはどうしても不安を隠せない。
(あー。本当に心配だよ!誘拐とかされたら・・・相手を殺しちゃうんじゃないかって!!)
・・・そっちの心配か!
「大丈夫だって!な?」
安心させるように目をくりくりさせて弟をのぞき込む仕草は、まさに食べてしまいたいぐらいに可愛い!
「・・・安心できないんですけど」
「心配性だなぁ、アルは!」
「だって!・・・兄さん可愛いから」
ぼそり、と呟いた瞬間、アルフォンスは凍り付いた。
『小さい』『豆』に続き、『可愛い』は兄にとって禁句。最大のNGワード。
これを口にしたがために、今まで何人の馬鹿が死出の旅路に出た事か!!!
一瞬本気で血印消されるんじゃないか、あるいは鎧を木っ端みじんにされるんじゃないかと覚悟を決めたアルフォンスだったが。
兄の予想外の態度に目を瞠った。
兄、エドワードは・・・それはそれは嬉しそうに微笑んでいたのだ。
端から見ればお人形さんのように愛らしく。知っている者が見れば・・・こわ!と尻尾巻いて逃げ出したくなるように凶悪に。
「ににににに兄さん!?」
「・・・俺、可愛い?」
「は?」
「アル?俺、可愛い?」
「・・・」
いや、可愛いか可愛くないかと聞かれれば、そらもう可愛いけれど・・・。
「なーぁ?」
「可愛いデス!(怖い!!)」
思わず直立不動で答えるアルフォンスに、エドワードはまたしても予想外の行動にでる。
ごそごそと紅いコートのポケットから取り出したのは・・・なんと折りたたみ式のポケットミラー。
それをぱちんと開けると。
「そうだよなー。俺様、可愛いよなー」
などと言いながら、前髪をちょいちょい整えたり、微笑んで見せたり。
「にいさん!!何やってんの!」
そんな女の子みたいな!!
有り得ない!
かなり本気で引いているアルフォンス。
ちょうどそこにタイミング良く、汽車が滑り込んでくる。
エドワードは足下に置いてあったトランクを担ぎ、颯爽と歩き出す。
そして、後ろを振り向かずに弟に向かってグッと親指を立てて見せた。
「待っていろ、アルフォンス!!!」
「俺は・・・」
「魔性の男になってやるぜーーーー!!!!」
だんだんと遠ざかっていく汽車。
豆粒サイズになり、更に小さくなって見えなくなったあたりで、漸くアルフォンスの呪縛が解けた。
「え・・・・?」
ましょうのおとこ・・・?
「なにソレ」
魔性の男?
「にいさん・・・国家錬金術師になるんじゃなかったの・・・?」
その後、痺れを切らしたウィンリィが様子を見に来るまで、アルフォンスは兄の謎の発言に頭を抱えていた。