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セントラルへと向かう汽車の中、エドワードは幾分緊張した面持ちで小さくなって座っていた。
セントラルにつけば、否応もなく、己とアルフォンスの運命が決まる。
失敗は許されないのだ。
国家錬金術師と資格試験に合格するのは当然と思っている。だが、それに付随するあれやこれやが心配なのだ。
つまり、いかにしてセントラルにいる”ロイよりもっと上の立場”な輩を虜にするか。
後見人となってくれるロイ。国家錬金術師でもある彼が味方(という名の下僕)なのは心強い。しかし、それだけでは駄目なのだ。
物事をエドワードに有利に展開していくには、ロイだけでは正直不安がいっぱいだ。
味方はひとりでも多いほうが望ましい。
持っている権力が強大であればあるほど尚良し。
はてさて。
綺麗事の通用しない、腹黒そうな連中相手に、自分はどう行動すればいいのだろう?
もう一度言うが、失敗は許されないのだ。
一発勝負。
うーむ。
「エドワード君、何か食べる?」
肩に力を入れ、眉間に皺を寄せて物思いに耽っているエドワードに、ホークアイが優しく声をかける。
「随分と緊張しているようだが、君の実力を思えば試験など楽勝だよ。エドワード・エルリック。何か腹に入れてリラックスしたまえ」
ロイの手がくしゃり、とエドワードの髪を掻き回した。
チッ。ガキ扱いしやがって。
内心悪態をつけつつ、いつの間にやら板についた”遠慮たっぷり”で”心なしか落ち込んだ”表情を浮かべ、エドワードは両手を振った。
「いいよ。俺、お金ないから・・・昨日宿に泊まったから、すっからかんなんだ」
「まぁ、宿に泊まったの?ついてすぐに連絡をくれれば、軍の宿舎にタダで泊まれたのに」
タダ、という素敵で無敵な言葉は魅力的だが、軍の宿舎など肩の凝る場所は真っ平ごめん。
俺様は美味しい食事と清潔な環境、なにより、チヤホヤされたい(チヤホヤされる=おばちゃんおっちゃん連中から様々な情報をゲッチュしやすい環境)んだ。
「そうだとも。わざわざ泊まるなど・・・」
「ん・・・ありがと。でも、昨日ついたの遅かったし。大佐も中尉も皆仕事で忙しいから、邪魔したくなかったんだ。遅くに連絡して迷惑かけたくない」
軍人は激務だろ?仕事終わったら 早く帰ってゆっくりしたいだろうし、そんな時に俺が訪ねたら・・・。
えへへ。とちょっぴり疲れた笑みを漏らす少年に、激務をこなす軍人ふたりは心を打たれた。
(なんて優しい子!)
(なんと気遣いのできる!素晴らしい!ワンダフォー!!)
エドワードはさらに。
「お金なら大丈夫!出て行った親父が残したお金があるから。死んじゃった母さん、殆ど使わなかったんだ。・・・って、機械鎧の手術でほぼ消えちゃったけど」
親父蒸発と母親死亡をさりげなく会話に織り込み、五体不満足になった事実を淡々と語る。
大人・・・特に”守る”という意識が強い軍人は、この話題に弱い。(←宿にあった軍人と町娘の恋愛小説で仕入れたネタ)
案の定、ロイとホークアイは「なんて痛ましい・・・」と悲壮な顔つきになった。
こうなればしめたもの。
「でも宿の人、親切で負けてくれたよ?次からはタダでいいって。大佐のお陰かな?イーストシティの人、優しいよね・・・」
ふわり、と大輪の華の如き笑顔。(←宿で猛特訓)
「「!!!!!!」」
「エドワード君!遠慮しないで!大佐の奢りよ!まだまだ成長期なんだから、たくさん食べないと!」
「そうだぞ、エドワード・エルリック!セントラルでの宿と食事は私に任せたまえ!というより、この先の衣食住は心配ご無用だ!」
ハッ。
チョロいぜ。
ますます勢力を増す小悪魔と手玉に取られる大人ふたりを乗せ、汽車は軽快にセントラルを目指し疾走していく・・・。
続く。